活動レポート
VRも駆使し、多くのこどもたちに漁業体験を提供
学校での取組:和食給食の普及農林漁業体験
人と人をつなぐ「はしわたし」の役割を担って
「困っている人と応援したい人」、「知ってる人と知りたい人」、「いっぱい持っている人と足りない人」を「はしわたし」することをミッションとし、令和2(2020)年9月に設立された一般社団法人はしわたし研究所。設立当初から食育や環境保全、教育に携わり、イベントの開催や出展、食育教材の開発・制作、学会発表など様々な取組を行ってきた。本事業についてもこれまで培ってきた経験や知見、ネットワークから生まれたものである。
本事業を実施するにあたり課題としてとらえたのは、地域や家庭における食文化の継承の実現、こどもたちに対する農林漁業体験の機会創出、学校給食での地元食材の活用による地産地消の推進である。これらは「第4次食育基本計画」の目標にありながらも、なかなか実現が難しいのが現状であり、はしわたし研究所が文字通り橋渡しの役目を担って、こどもたちや保護者、学校や教育委員会、自治体、生産者や地域住民、メディアといった異なる立場の人々をつなぎ、本事業を進めていくこととした。
漁業体験を主軸に地産地消に触れる取組
本事業を実施するにあたり、過去にはしわたし研究所が行ってきた事業で関わりができていた千葉県船橋市、静岡県沼津市・牧之原市と連携することとなった。これらの自治体はそれぞれ、食文化の継承やこどもの農林漁業体験の増加、給食での地産地消の推進などを盛り込んだ「食育推進計画」を策定しており、本事業の内容はその目標達成に寄与するものである。
地域で行われている漁業や未利用漁に対する地域住民の理解が浅いことから、小中学生や保護者、地域住民を対象にした、地域の水産物(未利用魚を含む)を活用した漁業体験と和食給食体験などを実施した。千葉県では、東京湾で漁業が行われており、ボラが未利用魚として扱われていることから、船橋市内の30校の市立小学校にボラを提供しての給食体験や、市内小中学生を対象としたスズキの底引き網漁体験を行った。
また、静岡県ではタイの養殖が盛んではあるものの、養殖漁業がどのように行われているかをこどもたちだけでなく保護者も直接知る機会はほとんどないため、沼津市静浦小中一貫学校や牧之原市立姶良小学校においてタイの養殖漁業体験とタイを使った給食体験、バーチャルリアリティ(VR)を活用した養殖漁業の疑似体験を実施した。
工夫したのはこどもたちによる取材とVR体験
この事業の特徴として、特に二つのことが挙げられる。
まず一つ目は、こどもたちが記者となって自らが参加する漁業体験を取材する機会を設けたこと。
これは、静岡での養殖漁業体験で行った。地域情報誌で記事を掲載することにより、参加したこどもたちは目的意識をもって主体的に体験に臨み、取材し記事をまとめることを通じて知識を深めていった。また、より多くの地域の人々にこの地域ならではの食育活動を知ってもらえるという利点もある。
千葉県では地域の情報サイトの取材を受け、底引き網漁体験の様子が紹介された。
もう一つは、静岡県、千葉県の両県で実施したVRによる漁業の疑似体験である。これには、はしわたし研究所が食育活動にVRを活用してきた経験が生かされた。漁業体験などに実際に参加できる人数には限りがある。そのため、参加したこどもたちが実際に漁業体験をしている様子を撮影し、YouTubeにアップ。参加できなかった多くのこどもたちも、給食体験後にQRコードからVR動画にアクセスすることで、地元食材の美味しさと漁業の様子を結び付けて知り、考えることが可能となった。はしわたし研究所は、このVR動画を参加校に提供し、今後の学校での食育活動に役立ててもらう予定。
食育の機会をもっとオープンな形で増やしていきたい
漁業体験は、天候の問題や入念な安全対策、協力団体との細やかな調整などを一つひとつクリアしながら実施。
静岡県では、通常の漁業とは異なり、命を育てて食べる養殖漁業の体験の場を提供できたことはよかったと、はしわたし研究所は考えている。こどもたちはエサを与えた時のタイの反応、1年目と2年目のタイの大きさの違いなどを目にし、その手で直接触れ、最後は調理して味わうことで、タイや漁業に興味を持ち、多くの質問をしていた。また、こどもたちだけでなく付き添いとして参加していた保護者にとっても、タイをさばくなど貴重な体験を得る場となっていた。また、千葉県でも、こどもたちが地元の未利用魚の存在を知り、実際に食べてその美味しさを確認していたことや、底引き網漁に参加して面白さとともに大変さを実感している姿に、普段できない体験を提供することの大切さを改めて感じた。
こどもたちや保護者の様子を目の当たりにした学校関係者から「ぜひまた参加したい」という声も寄せられている他、食育活動に理解があり協力にも積極的だった漁協などの各団体にもこの企画は好意的に受け止められている。
はしわたし研究所では、今後も地域との連携を強化しながら、その地域でとれる食材を活用した料理コンテストなど、オープンで誰でも気軽に参加できるようなイベントなどを開催し、食育に親しむ機会を創造していきたいとしている。
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