活動レポート
郷土料理を作って食べる料理教室を全国で開催
地域での取組:共食の場での食育
コロナ禍を経て生じた食育への意識の変化
新型コロナウイルス感染症の流行は、こどもたちを含む多くの人々のライフスタイルを変化させた。食生活もその一つである。外出を控え自宅での食事が増えたことにより、地域での共食の機会が減少。地域に伝わる料理や作法を体験する機会が失われた。
その一方で、最新の「食育に関する意識調査報告書」(農林水産省調査 令和5(2023)年3月公表)によると、地域等で共食したいと思う人が共食をする割合(57.8%)や、地域や家庭で受け継がれてきた料理や味、食べ方・作法を受け継いでいる人の割合(64.2%)、伝えている人の割合(68.5%)は、前年度に比べて増加している。このことから、人々の生活が食育につながる前向きな変化を遂げていることがうかがわれ、共食の機会を増やすことによる地域の食文化の再生が期待される。
株式会社エヌケービーは、このような変化を背景に、次世代を担うこどもたちが自身の地域の伝統や農産物についての魅力を再認識することを目的に、本事業では、地域食材を使った郷土料理などを教える料理教室と、共食の機会を提供することを実施した。
地元食材を使ってこどもたちが郷土料理作りにチャレンジ!
本事業では、これまでもこども自身による体験型食育プログラム活動を実施してきた一般社団法人キッズキッチン協会と連携し、共食の場における食育活動、食文化の保護・継承や日本型食生活の実践のための取組支援を行って、地域の食文化や農産物への理解と関心を深めることを目指した。
具体的には、全国のこども食堂や学習塾を利用しているこどもたちに、自分が暮らす地域で生産される米や野菜、魚介類、肉などを使った郷土料理を、みんなで作ってみんなで食べる料理教室を開催するもので、米の生産者による授業や精米体験なども含まれる。これらの体験を通じて、次世代を担うこどもたちには、地域の伝統や農産物の魅力を再認識し、食事を「楽しい」「美味しい」と感じてもらう取組だ。
料理教室の様子をオンライン配信やアーカイブ配信することで、対面参加ができなかったこどもたちにも学びや体験の機会を設けるようにした。料理教室のレポートやこどもたちが作った郷土料理のレシピも、特設サイトで公開。さらに、実施地域の新聞社と連携を図り、普及活動や情報提供にも務めた。
ともに作ってともに食べ、食と地域への思いを深める
この事業を通じて、第4次食育推進基本計画の目標のうち、「地域等で共食したいと思う人が共食する割合」「地域や家庭で受け継がれてきた伝統的な料理や作法等を継承し、伝えている国民の割合」「産地や生産者を意識して農林水産物・食品を選ぶ国民の割合」の増加に寄与できたと考える。
兵庫県のこどもカフェでは、この地域で活動するキッズキッチン協会副会長が講師となり、地元の新米を土鍋で炊いたご飯、明石名産のタコと米粉を使った明石焼、淡路島産玉ねぎを使ったドレッシングのサラダをこどもたちが作った。また、静岡県の学習塾では、米農家・桜エビ料理研究家を講師とし、さらに桜エビ漁師も登壇して講義を行い、その後に桜エビのかき揚げと枝豆ご飯づくりにチャレンジ。この様子は県内と北海道の系列の学習塾にオンラインでライブ配信した。
このように、各地域の郷土料理や食材に精通している人、こどもに教えるノウハウをもつ人を講師とした料理教室を9都道県で全20回開催し、オンラインを含めて1200人以上のこどもたちが参加。初めての料理や友達と協力することに楽しさを感じた子、地元食材についてもっと知りたいと思った子、自分が作った料理を保護者にも教えてあげたくなった子、美味しさを友達と分かち合った子など、この体験を通じてそれぞれのこどもたちが、食、そして地域の食文化への興味を深めていく様子がうかがえた。保護者にとっても改めて地域の食材や郷土料理について考えるきっかけとなり、「自分も作ってみたい」という声も聞かれた。また、参加した講師や生産者は、こどもたちの自由な発想や素直な反応が新鮮だったと話している。
今回の取組から見えてきた新たな課題
本事業の実施にあたっては、郷土料理の定義を「その地域で、三世代前の人たちが食べていた料理、もしくは商業的に成功している料理」とした中で、全地域を対象として、懐石料理とはどのようなものかをこどもたちに分かりやすく解説する、オンライン動画を配信した。他の地域の郷土料理と懐石料理では取り上げる意味あいが大きく異なる。運営サイドとしても新しい試みであったが、懐石料理についてこどもたちが知る機会は少なく、日本の食文化を伝えるものとして意義があることが分かった。今後もこのような新たな視点が食育の幅を広げていきたいと考えている。
また、こども食堂からは、こどもたちが自分で食べる料理を作れるようになるための学びも必要だという声が挙がっている。この点についてもエヌケービーとキッズキッチン協会は、こどもたちの食を支援し生きる力を育むものとして、今後取り組んでいくべき課題と受け止めている。