活動レポート
困窮家庭のこどもたちに向けた四つの食の文化体験
地域での取組:共食の場での食育食文化の保護・継承農林漁業体験
経済の格差が食の文化体験の格差につながる社会
キッズドアは貧困家庭のこどもたちへの教育支援をめざして、平成19(2007)年に設立された。その後、平成23(2011)年の東日本大震災や近年のコロナ禍を受けて、教育支援以外の物資や食事の支援へと役割を広げていった。また、困窮家庭のこどもたちに共通する特徴として、日々の食事に困っているだけでなく、季節の旬を味わう、育った土地の食材や郷土料理を味わう、行事や風習にのっとった食事を体験するといった食に関する文化体験の機会が少ない点が挙げられる。昨今、ますます経済格差が広がる中で、全国に食育を浸透させていく上で困窮家庭のこどもたちへのアプローチが重要だと考え、今回は全国の困窮家庭のこどもたちと、宮城県南三陸町と福島県二本松市と山形県天童市の農林水産業者をつなぎ、食事支援に加えて「郷土料理による共食」「郷土食材を提供した宅食」「調理体験」「農漁業体験」の、4つの食の体験機会を提供するプログラムを企画・展開した。
普段は経験できない貴重な食の体験機会を形に
第一のプログラム「郷土料理による共食」では、キッズドアが運営するこどもの居場所となる4拠点と全国16箇所のこども食堂に、「サツマイモの中華おこわ」や「カボチャを食べるスープ」といったレシピを添えて福島県・宮城県を中心とした東北地方の旬の食材を送り、共食体験を提供した。
また、第二のプログラム「郷土食材を提供した宅食」では、以前からつながりのある困窮家庭375世帯に、南三陸町と二本松市からの食材セット1500人分を送付。地域の食材や生産者を紹介する動画(QRコード)を付け、自宅にいながらにして遠くの産地とつながれるようにした。
第三のプログラム「調理体験」では、宮城県と東京の計8会場で、「おせち料理」「郷土料理」「お魚料理」を作る食育授業(各回定員30名)を開催。どの回も参加者からは好評で、特に「お魚料理」では、普段は親世代でも見ることの少ない10種類の魚を見たり、触れたり、実際に魚のさばき方を教わったりする貴重な体験に驚くこどもたちが続出した。
そして、第四のプログラム「農漁業体験」では、計73名のこどもたちが南三陸町、二本松市、天童市を訪れ、農林漁業体験に参加した。こどもが発達障害のため、今までこうした催しへの参加をためらっていたお母さんも、同じ参加者やスタッフのサポートで貴重な体験ができたと同時に、こどもと一緒に楽しい時間を共有することができたと喜んでいた。
生産者や支援団体の思いが実現した食育プログラム
本事業は、日頃、文化的な体験の乏しい困窮家庭のこどもたちに食育活動を通して、文化体験や社会体験を経験してもらうことを大きな目的に実施した。今回、収穫する、調理する、食べるといった直接的な食の体験以上に、その周辺にある体験機会や他の仲間たちと一緒に過ごす貴重な時間を提供できたと感じている。例えば、二本松市では農作業以外でも棚田の見学や案山子(かかし)づくりを体験したり、南三陸町では漁業体験の他にも、漁師に必須な技術であり、災害時にも役立つ「もやい結び」を教わったりするなど、多様な暮らしの知恵を学ぶことができた。
その大きな要因となったのが、東北を元気にしたいと願う生産者、自身も4人のこどもを育ててきた料理研究家、普段からこどもたちの現状を知る支援団体のスタッフの強い思いによるところが大きい。本事業で、こどもたちへの新たな体験機会や新しい居場所の提供と同時に、同じ思いを持つ大人たちをつなぐことができたのが大きな成果だった。
困窮家庭と生産地を繋ぐ組織や企画の重要性
参加したこどもや保護者たち、関係者からはどのプログラムも高い反響と評価を得ることができた。こうした新しい体験や機会を求める家庭は多く、特に保護者は、チャンスがあればもっとこどもたちに色々な経験を積ませたいと強く願っている。また、全国各地には、そうしたこどもたちのために、ぜひ協力したいと思っている生産者や料理関係者も多く存在することが分かった。ただ、そうした人たちを結びつける企画や組織は多くないのが現状で、その点が解消されると食育全体のレベルが上がっていくものと思われる。その意味でも、キッズドアのような組織は、今後、ますます重要になっていくだろう。
2月3日(土)には、本事業の詳細や成果、参加したこどもたちの喜ぶ声などを紹介する関係団体向けの報告会が開催された。そこでは、食育はこどもたちが心身ともに健康的な生活を送るためには不可欠な要素であり、その提供は社会全体の責任であることが共有され、改めて関係団体による連携の重要性が確認された。