活動レポート

高校生のチカラで、地域の魚食文化の復活を目指す

事業名:うおうおキッチン
団体名:一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン

地域での取組:共食の場での食育食文化の保護・継承農林漁業体験

実施都道府県:宮城県、北海道

未来のフィッシャーマンを育てる食育の取組

平成23(2011)年の東日本大震災で東北地方の漁業は壊滅的な被害を受け、多くの漁師や水産加工業者が廃業に追い込まれた。そうした宮城県の水産業を復活させよう、そして、宮城県から日本の水産業を「新3K(カッコよくて、稼げて、革新的な)産業」に変えていこうと、平成26(2014)年、県内の漁師、水産業者、大手IT企業の社員らによって立ち上げられたのが一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンである。以来、「水産業の仕組みを変える」「未来のフィッシャーマンを育てる」「漁業の魅力を伝える」「これからの水産業を持続可能にする」を柱に様々な活動に取り組んできた。本事業も、地元の高校生たちに、地元で取れる水産資源の素晴らしさと、漁業の面白さや魅力を知ってもらい、昔から地域に伝わる食文化を若い世代にも広げたいという思いからスタートした。水産業が盛んな石巻市でも、以前に比べて街中の魚屋は姿を消し、地元のこどもたちが魚に触れる機会は少なくなっていた。また魚食文化から肉食文化へと食生活が変化したこともますますこどもたちの魚離れを加速していた。今回の取組である「うおうおキッチン」をきっかけに、地元の魚の素晴らしさを知り、魚食を中心とする地域で受け継がれてきた食文化や食生活の魅力に気づく高校生が増えることに期待している。

「うおうおキッチン」での共食風景。水産加工会社の社員、フィッシャーマン・ジャパンのスタッフも参加

地元の高校生に口コミで広がった「うおうおキッチン」の輪

令和4(2022)年3月、フィッシャーマン・ジャパンは地元の高校生を対象に水産業の魅力を知ってもらうための1日バイト「すぎょいバイト」プロジェクトを実施。漁師や水産加工会社の仕事を手伝うバイトには、定員30名の募集に対して、水産高校以外からも、進学校の生徒を含む50名以上の応募があり、潜在的な興味があることを感じていた。今回の「うおうおキッチン」も、その時に応募してくれた生徒たちを中心に声かけを行った。
手を挙げてくれた高校生にフィッシャーマン・ジャパンの事務所を開放し、漁師や水産会社の社員と一緒に、その日に取れた魚を見ながらメニューを決め、自分たちでさばいて調理し、出来上がりをみんなで食べた。時には、普段は市場に出回らない魚種や商品として使えない部位もあり、それらもプロの指導によって美味しく食べられることを学んだ。8月の第1回目には4人の高校生が参加。初対面のぎこちなさもあったが、調理や食事がすすむにつれて会話が弾んでいった。その後、2週間毎に計8回の「うおうおキッチン」を開催したが、繰り返し参加する子もいれば、友達の口コミで参加する子もいて、回を重ねるごとに地元の高校に広がっていった。
他の高校に通う生徒と知り合うきっかけになった、苦手だった魚も自分でさばくことで食べられるようになった、大人も一緒に参加するので普段とは違う話が聞けた、作った料理を自宅に持ち帰ったら家族との会話が盛り上がったなど、多くの喜ぶ声を聞くことができた。

「うおうおキッチン」で、高校生たちが力を合わせながら、秋鮭1匹をさばく

多世代が集まることで、自然と役割が決まり、協力が生まれる

「うおうおキッチン」では事務所から現場にも飛び出し漁業体験も行った。10月には蛤浜と桃浦で漁師をしている亀山さんと土橋さんの協力のもと、桃浦漁港を訪れ、実際の漁に同行して取れた魚を調理して食べた。石巻の海の近くで生まれ育ち、現在も浜の近くで生活を営まれているお母さんたちからレシピがない郷土料理を口伝えで教わったことは、地元の魅力を再発見するよい機会になった。知識としてではなく、実際に現場を訪れ、その土地に住む人たちから地元の風習を伝え継ぐ大切さを知った。
この漁業体験には、高校生以外に小学生や大学生、社会人まで幅広い世代が参加したため、高校生は小学生の面倒を見て、大学生は運営側のサポートを行うなど、自然と新たな協力関係が生まれていた。普段は限られた世代との対話しかない彼らにとって、色々な大人と直接言葉を交わし、一緒に行動する機会は貴重な体験となった。
今回は、こうした石巻での取組を産地に近い「漁村型コミュニティ」とし、北海道の一般社団法人DO FOR FISHによる札幌市での取組を消費地に近い「都市型コミュニティ」と位置づけ、ともに水産業の活性化を目指した取組でありながら2通りのアプローチを試みた。

漁師さんとカゴ漁でタコを捕獲

「生きる力」と「石巻プライド」を育てるカッコいい取組

本事業では、いきなり社会課題を掲げるよりも高校生にとって身近な興味を入り口にする大切さを感じた。地場産業の課題よりも「すごく美味しい」「船に乗ったら気持ち良かった」「新しい友達が増えた」と感じてもらえたことが、結果、口コミで参加の輪を広げることにつながった。参加してもらえれば現場の苦労や魅力は必ず伝わるし、そこから新たに考えてくれる高校生が現れるはずと考えている。また、高校生たちの共感を得るためにこだわったのが「カッコいい」である。彼らの世代に響くデザインやネーミングには徹底的にこだわり、それを受け入れられたことが今回の成功の大きな一因だと感じている。
今回のプロジェクトの根底には、高校生たちに「生きる力」と「石巻プライド」を感じ取ってほしいという願いがあった。「生きる力」とは、自分で取った魚をさばいて、調理して食べる一連を指し、「石巻プライド」とは、石巻の美味しい魚介類や、それを育む石巻の自然を誇りに思ってもらうことを指す。今回のプロジェクトで、そうした気持ちが芽生えるきっかけを作ることができたと感じている。

浜のお母さんと調理した地元の料理をいただく

実施主体:一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン
〒986-0827 宮城県石巻市千石町8-20 TRITON SENGOKU
公式サイト:https://fishermanjapan.com/project/uouokitchen/