活動レポート

郷土の食文化をすべての世代に受け継ぐ食の取組

事業名:親子のための食文化教室 料理の楽しさと食文化を学ぶレシピ集「できたよ!おうちごはん」
団体名:特定非営利活動法人霧島食育研究会

地域での取組:共食の場での食育食文化の保護・継承

実施都道府県:鹿児島県、福岡県

鹿児島の郷土料理を召し上がれ

その地域に「あるもの」を活かした食育活動の歩み

特定非営利活動法人霧島食育研究会は、理事長を務める千葉しのぶさんの思いから平成16(2004)年に仲間たちと立ち上げられた食育団体である。もともと管理栄養士だった千葉さんは、忙しく暮らす日常の中で、自分のこどもに「食の大切さ」を伝えているだろうかという疑問を感じていた。一方、年々霧島地域の田畑が減少していく現状に、このままでは近い将来この地域の食材、食料生産の技術、ひいては郷土の食材や味、家庭の味を大切にする食文化が継承されなくなるのではと強い不安を抱いていた。そうした思いを行動に移したのが霧島食育研究会の設立であった。
以来、同じ思いを持つ仲間たちを巻き込み、田畑などの圃場を借り、そこで米や大豆の「植え方から食べ方まで」を学ぶ食農教育や「鹿児島に伝わる郷土料理」を丁寧に掘り起こし、料理教室などの体験イベントを定期的に実施してきた。さらにそこで学ぶレシピなどをホームページやレシピ本を通して広く伝え続けてきた。「地域の食文化を継承していくには、その地域にあるものを探し、それを自分たちが学び、さらにいろいろな世代に広く伝えていくことが大切」と、千葉さんはこれまでの活動を振り返る。今回は、そうした20年間の活動で培った経験とネットワークを活かし、「親子のための食文化教室」と「料理の楽しさと食文化を学ぶレシピ集」の作成に取り組んだ。

自分の目で見て、しっかりと手順を覚えることが大事

手元をしっかり見て、覚えて作り上げる郷土料理

本事業の「親子のための食文化教室」を支えてくれたのは、霧島食育研究会が開催する「かごしま郷土料理マイスター養成講座」の受講生たち。普段から郷土料理を学ぶ彼女たちが今回のメニュー選びや料理教室の講師を務めてくれた。鹿児島県と福岡県の計8カ所で開催された教室は、どの会場も募集と同時に定員に達する程の大人気。幼稚園児や小学校低学年のこどもたちと、その親世代、さらには祖父母も多く参加し、まさに「様々な世代」が参加したにぎやかな食文化教室となった。
鹿児島では、今回、鹿児島市に加え南九州市や枕崎市でも開催。南九州市では、鹿児島のソウルフードとして親しまれている「がね(サツマイモを細く切って揚げたもの)」や「よごし(白和え)」、さらに当地で昔から食べられていたという「山下ずい(鶏と野菜の汁物)」を実習した。枕崎市では「ひっかけそうめん(カツオの中骨でとっただしにそうめんを加えたもの)」「カツオの腹皮の蒲焼き」などを作り、祖父母は懐かしさを感じるものの、親世代では「こういう料理があることを初めて知った」などの感想が上がった。鹿児島市では、地元でよく食べられている「軽羹(かるかん)」を作ったが、手軽に作れることに驚いたとの声が多く、保護者は、ぜひ自宅でも、こどもと一緒に挑戦したいと喜んでいた。
「今回、最初に紙のレシピを配らず、まずは講師のデモンストレーションでしっかりと覚えてもらうようにしたことでこどもさんと保護者たちが真剣になってくれました」と千葉さん。これまでの経験から、調理することをレシピに頼りすぎる傾向があることを感じていた。まずはよく見て、しっかりと覚えて、そのあと親子で調理する時間を楽しんで欲しいと考えている。

大人もこどもも夢中になった軽羹作り

準備から後片付けまでを学び、食文化の継承を

今回の「親子のための食文化教室」に参加できないこどもたちにも、自ら郷土料理作りに取り組んで欲しいと考えて作成したのがレシピ集「できたよ!おうちごはん」である。レシピ集は、①調理の基本②ご飯や味噌汁などの基本の料理③郷土料理レシピの3部構成で編集され、最後の郷土料理のレシピには鹿児島版と福岡版で異なる郷土料理各3品の作り方が紹介されている。
最近のこどもたちは調理の準備や後片付けが苦手だという「かごしまこども食堂・地域食堂ネットワーク」のスタッフのアドバイスを受け、レシピ集には「調理の準備の仕方」「後片付けの仕方」を盛り込んだ。ただ調理するだけでなく、準備から後片付けまでを安全で清潔にできる日々の積みかさねが重要であり、食文化の継承につながるという気づきがあったという。また、全てのレシピにQRコードを付けて調理手順を紹介した動画を見られるようにするなど、近頃のこどもたちの目線に立った細かい工夫も施されている。
レシピ集「できたよ!おうちごはん」は1月末に完成し、鹿児島県と福岡県内のこども食堂を通じてそれぞれ2,000部配布された。

料理の楽しさと食文化を学ぶレシピ集
「できたよ! おうちごはん」鹿児島県版・福岡県版

食文化を学び、食の重要性を知る人を育てる

今回、鹿児島県で開催された計4回の食文化教室の参加者アンケート結果によると「参加してよかった」が100%、「これからの生活に活かせる」が96%、「郷土料理への興味が増した」が100%、「食材購入の際に産地や生産者を意識する」が98%、「今後も郷土料理を学ぶ機会があれば参加したい」が98%と非常に高い結果が得られた。この結果からも、本事業が親子での基本的な調理技術や食文化の学習・実習の場になるとともに、食の重要性を丁寧に学び、共食の楽しさや重要性を改めて認識させる体験の提供につながったと思われる。こうした取り組みが、今後も、地域の食文化の継承や、意識して地元の農林水産物や食品を選択できる人の育成につながっていくものと考えている。
また、今回の活動を通じて、新たな関係を築いたこども食堂から多くを学べたことは霧島食育研究会にとって大きな収穫であった。こども食堂に集まるこどもたちは食事以外にも学びや自立の機会を求めている。そうしたこどもたちに料理を通して自立をサポートしていくことに、霧島食育研究会の新たなヒントを見いだすことができた。

親子で協力して郷土料理にチャレンジ

実施主体:特定非営利活動法人霧島食育研究会
〒899-4201 ⿅児島県霧島市霧島⽥⼝1653-2
公式サイト:https://kirisyoku.com/