活動レポート

舌で覚えた和食の記憶がこどもたちの未来をつくる

事業名:「だしで味わう和食の日」及び出前授業
団体名:一般社団法人和食文化国民会議

学校での取組:和食給食の普及

実施都道府県:東京都、神奈川県、静岡県、兵庫県、福岡県

「だしで味わう和食の日」を柱に、出前授業等で「和食」に触れる機会を提供

世界中から注目を集める「和食」であるが、日本国内で「和食;日本人の伝統的な食文化-正月を例として-」がユネスコ無形文化遺産に登録されていることを知っている人の割合は年々減少しており、令和4(2022)年度の調査では25%にまで落ち込んでいる。また、家庭環境の多様化や食生活の変化などから、食べ物だけでなく作法や習慣なども含めた和食文化の継承も難しい状況にある。
ユネスコへの和食の登録申請を契機に設立された一般社団法人和食文化国民会議は、全国の小・中学校幼稚園、保育所等を対象とした「だしで味わう和食の日」を柱に、和食文化の保護・継承活動を行っている。それは、11月24日の「和食の日」を中心に、給食を和食献立にし、その汁物などで、和食の要である本物の出汁のうま味を実感し、「和食」とは何かを考えるきっかけにしてもらうというもの。開始以来参加校は増え続け、令和5(2023)年には全国で15,119校、358万人を超えるこどもたちが参加した。
本事業では、和食文化の保護・継承を通じた食育活動として、「だしで味わう和食の日」と連動し、座学と出汁の試飲を行う出前授業(10~11月に11校で18回)、和食給食の提供促進、和食文化国民会議制作のチラシやポスターを活用した和食指導を実施した。また、本事業と関連して、国立科学博物館において令和5(2023)年10月から開催された「和食展」を後援し、出前授業や和食給食で使用した「だしで味わう和食の日」のチラシで「和食展」を告知するとともに、「和食展」会場内で配布された号外新聞に広告を出稿。11/11・12には同会場にて出汁の試飲やカツオ節削りの体験も行った。

「和食展」の告知を入れた「だしで味わう和食の日」のチラシ

食育の重要な役割を担う給食

核家族化が進み、両親が共働きの家庭が増加し、こどもたちも塾通いで忙しいなど、各家庭の状況は多様に変化している。孤食が増え、三世代が同居し家族みんなで食卓を囲んでいた時代と比較すれば、家庭での料理、味、食事のマナーなどの継承は困難になってきている。また、食事そのものをみても、調理のための時間がなかなかとれない上に、米を炊き出汁をとってみそ汁を作るより、もっと手軽に食べられる物が世の中に溢れ、和食離れが進んでいる。
各家庭の事情に合わせて、日常の中で無理なく和食や和食文化に親しんでもらうための取組や情報提供が求められる一方で、食育の場として期待が高まるのが学校での給食である。こどもたちが同じ食事をともに味わう給食での和食の提供により、和食の味わいや伝統、地場産物や旬の食材といった自然の恵み、食事のマナーなどの文化を伝えることは、家庭で失われつつある食育の機会を補うと考える。本事業を実施した学校等に和食給食をメニューとして提供してもらったが、栄養教諭や栄養士が、給食で使用した魚の養殖の様子を教室に配信したり、児童や生徒に献立を考えてもらったりするなど、栄養面だけでなくこどもたちの学びや体験を意識して取り組んだ結果、和食への理解や地元の食材への意識の高まり、周囲の人を思う心が育まれたなどの成果がみられた。

和食給食では地元食材の理解を深めるなど様々な取組が行われる

大切なのは「舌の記憶」

日本の食文化は様々な国の食文化を柔軟に受け入れながら発展してきた。しかし、その根底にあるのは和食である。出前授業では、和食に関する知識や、和食に込められた感謝の気持ちや自然への敬意などを含めた和食文化を学ぶ座学に加え、和食の基本であるコンブとカツオの合わせ出汁などの試飲を行っている。それは、知識だけでなく「美味しい」という感覚でこどもたちに和食に興味をもってもらい、その舌に和食の味わいを記憶させることが大切との考えからだ。
成長期のこどもはカロリーも脂質も、時には濃い味付けも必要である。しかし、大人になっても成長期と同じ食生活を続けていれば、生活習慣病のリスクを高めてしまう。和食の繊細な味わいを経験することがないまま成長してしまえば、いざ健康のために和食を食べようと思っても、味になじめず、和食への回帰が難しい。そのような状況に陥らないようにするためにも、こどもの頃に舌に和食の味わいを覚えさせる機会が必要なのである。

コンブやカツオ節に直接触れ、出汁を味わい感想を共有する出前授業

食育活動の点を線につないでいきたい

食育の取組を一つひとつの点ではなく線につなげて、活動の環を広げていくことも、和食文化国民会議の目指すものである。
「だしで味わう和食の日」への参加者は年々増加しているが、その理由は和食や食育への意識の高まりだけではない。栄養教諭や家庭科教師などは、こどもたちの健康な食を担う存在。もともと和食や和食文化、食育の大切さを理解し、それぞれの学校で取り組んでいる。それが「だしで味わう和食の日」をきっかけに顕在化してきたとみられる。和食文化国民会議は、現場でこれまで個別に行われてきた取組や抱えている課題などを拾い上げ、学校以外の関係者も巻き込んで、みんなで一緒に解決していく仕組みをつくっていきたいとしている。
また、限られたリソースの中で、出前授業をどれだけ広げられるかも課題である。理想は、全国どこでも、こどもたちが同じレベルの出前授業を受けられる環境が整うこと。知識を学ぶことはオンラインでも可能であり、現在も、学校などで配布するチラシや和食文化国民会議のHP、イベントを通じて情報提供を行っている。しかし、出汁を味わうことや学びの場の臨場感は、オンラインでまかなえることではない。
授業は、学校等の先生よりもこどもたちの聞く姿勢や学習意欲は高まることから、専門家や外部講師に任せるのが望ましいが、和食文化国民会議から全国各地に授業内容に合った講師を派遣するのは難しい。その一方で、全国には和食や食育に関する資格を取得しながら、その知識や経験を活かしたアウトプットが十分にできていない人もいる。和食文化国民会議はこれらの人材との連携も考えていきたいとしている。

参加校・参加人数が年々増えている「だしで味わう和食の日」

実施主体:一般社団法人和食文化国民会議
〒110-0015 東京都台東区東上野1-13-2 4階B
公式サイト:https://washokujapan.jp/