活動レポート

体験と経験の不足、関係性の不足の解消を目指して

事業名:こども食堂食育プロジェクト
団体名:一般社団法人こども食堂支援機構

地域での取組:共食の場での食育食文化の保護・継承農林漁業体験

実施都道府県:全国

消費期限の迫った食品でこども食堂を支える

平成23(2011)年の東日本大震災以降、防災意識の高まりにより誰もが非常食の備蓄に努めるようになった。ただ、自治体や企業、各家庭に蓄えられた非常食は数年に一度入れ替える必要があり、多くが廃棄されている現状がある。以前、勤めていた会社で防災事業に携わった経験のある一般社団法人こども食堂支援機構代表理事の秋山宏次郎氏は、そうした社会的なロスを解決するため、消費期限の迫った非常食を廃棄せざるを得ない人と、食料が必要な人を橋渡しする仕組みが必要なことに気付いた。「そのことをあるシンポジウムで話したところ、こども食堂を運営する方々から反響をいただいた。賞味期限が2か月ほど残っていながらも新しいものと交換で捨てられそうだった非常食2,000食分を提供したところ、食べてくれたお子さんからのお礼の手紙が届いた。1通の手紙に背中を押され本腰を入れて食料のマッチングを行うようになった」と話す秋山氏。以来、食品メーカーや自治体などの協力を得て、消費期限の限られた食品や流通過程で印刷がにじんだり、外箱が傷んだりしただけの食品を集めて全国のこども食堂に提供し続けてきた。
現在、こども食堂は、全国に7,000軒以上あるといわれているが、この中には昨今の物価高により事実上の休眠状態にあるところや開催頻度を大幅に減らしているところ、また開催できたとしても食事内容や量を切り詰めているところも少なくない。その一方で、物価高によってこども食堂の利用を希望する家庭は増加傾向にあり、こども食堂の支援は喫緊の課題だと感じていた。

鎌を使い、人力での稲刈りを体験中

居場所を求めてこども食堂に集まるこどもたち

一般的にこども食堂の利用者は、経済的に余裕のない困窮家庭のこどもばかりだと思われがちだが、実際にはそうではない。経済的には余裕があるものの家庭内に自分の居場所がないこどもたちもこども食堂に集まってくる。「極端な例だと、世帯年収が数千万円の家庭でも、保護者が極力育児に携わりたくないと中学一年生の男の子にワンルームマンションを買い与え、クレジットカードを渡して一人暮らしをさせていたケースもありました」と秋山さんは打ち明けてくれた。いくらお金があっても自分一人では旬の食材や行事を祝う食事を味わうことも、家族との楽しい食卓や団欒を経験することはできない。そうしたこどもたちにとって、こども食堂は人とつながることができる数少ない居場所なのである。
困窮家庭のこどもたちと居場所がないこどもたち、どちらにも共通しているのが「体験や経験の不足」「関係性の不足」である。今回の事業では、こども食堂を通して、多くのこどもたちに食品の提供だけでなく、食文化の経験や体験、人とのつながりを感じてもらうために「共食の機会」「旬の食文化体験」「自然に触れる農業体験」を実施した。

コンバインで稲刈り・脱穀を実演しながら、稲穂が米になるまでを説明

見るもの、聞くもの、触るものの全てが糧に

一つ目の「共食の機会」の提供では、以前より関係のある全国のこども食堂2,000件に期限切れ間近の食品の配布とともに、SDGsの観点から市場で余りそうな食材を優先的に調達し、こども食堂経由で食品ロスの問題について考える機会を提供した。
二つ目の「旬の食文化体験」では、こども食堂への提供食材の一部をホタテやブランド肉など、地元の特産食材にし、その説明資料を添えることで、こどもたちに地元食材を使った料理へ興味喚起を促した。今回、希望するこども食堂には実際にこどもたちの調理したレシピをSNSで公開することを提供の条件とした。それにより、各地での料理レシピの共有を促し、一つでも多くのレシピを覚え、実践して欲しいと考えた。
三つ目の「自然に触れる農業体験」では、栃木県佐野市の田んぼを訪れ、農作業を体験した。もともと休耕地だった土地を復活させた農地では、農作業以外にも珍しいカエルやバッタなど多様な生物との触れ合い、専門家による休耕地問題や害獣被害などの説明、生産者の指導による郷土料理作りなどを体験した。普段、自然での原体験がほとんどないこどもたちにとって見るもの、聞くもの、触るものの全てが貴重な体験となり、食について考えるきっかけとなった。

田んぼに生息する生き物を見せながら益虫・害虫と農業の関わりを説明

食育を通して、対話と理解が活性化する

本事業を通して、日々の運営に苦労する多くのこども食堂を支援できたこと、そしてこども食堂を利用するこどもたちに、食の文化体験や自然体験、仲間たちとつながる機会を提供できたことは大きな成果だった。今回の体験が、こどもたち自身の食について考えるきっかけになればと感じている。
また、今回のプログラムを通じてこども食堂で様々な対話が生まれたことに意味があった。「ある食品メーカーから、イスラム教徒やヴィーガンの方々も食べられる特別なカップ麺(https://freedom-ramen.myshopify.com/)の提供を受けました。こども食堂の運営者の中には、まだハラルについて知らない人も多くて、宗教的な背景やグローバル化によって必要性が増している事情を説明しました。また、提供いただいたカップ麺の中には賞味期限が短いため流通在庫にできないものも含まれていたため、勘違いされやすい消費期限と賞味期限の違いについても説明しました。本来であれば捨てられていた食品のおかげで開催回数を増やせたこども食堂もあり、廃棄を減らしてこどもたちの共食の場を増やせたのは一石二鳥でした。賞味期限と消費期限の違いなどは最終的にこども食堂を運営している方々から多くのこどもたちに伝えていただいています」と秋山さん。普段は、ただ食品を送ることが多いが、本事業を通して各地のこども食堂で食と社会の立体的な関係性を伝える機会が生まれた。ハラルやヴィーガン、賞味期限の意味などの話を核にしてこども食堂の中でも新たな対話が生まれた。ハラル食品の需要が大きいアジアで製造している故に日本への輸送リードタイムで賞味期限が摩耗してしまうこと、賞味期限は外国では「best before」と表記されており「賞味期限を過ぎてもベストでないだけで食べられることが多い」など、食品の期限についてグローバルな視点でこどもたちに深く興味を持ってもらえた。現代のこどもたちに不足しがちな経験や体験の機会を提供できたのではないか。また、食品メーカーの中には、こうした活動を社会貢献であると同時に、新たな広報活動として捉える会社も現れ始めており、社会全体の理解と協力の輪が広がる手応えを感じている。

郷土料理(耳うどん)の作り方を習った後、自分たちで作るこどもたち

実施主体:一般社団法人こども食堂支援機構
〒108-0074 東京都港区高輪1-26-18 高輪26番館205