食育コラム

「食育」はこども目線で面白く楽しく!

野菜ソムリエプロ緒方湊さん

食への興味を育んだ幼少期

小さな頃から、お菓子ではなくトマトやにんじんをおやつとして持ち歩くほど野菜が好きでした。お菓子を禁止されていたわけでも、野菜を食べることを勧められていたわけでもありません。僕自身が心から野菜を美味しいと思っていたからです。野菜だけではなく魚も肉も好き。辛いものが苦手なくらいで、好き嫌いはありません。和食もよく食べていたので、うま味などを感じる味覚も鍛えられていったのでしょう。

両親は、そんな僕の「好き」という気持ちをとても尊重してくれました。物心がつく前から、ぶどう狩りや桃狩りなど果物や野菜の収穫体験に連れていってくれて、成長するにつれて僕の知識が増えると、それに合わせて全国の産地まで足を運ぶように。その経験から、僕はますます食への興味を深めていきました。野菜ではないのですが、とても印象深かったのが、小学校1、2年生の頃に参加した江の島のシラス漁。船の上で食べた生シラスの味が忘れられません。取れたてで鮮度のいいものはこんなに美味しいんだ!と驚きました。

野菜ソムリエになってうれしかったこと

もともと食いしん坊ということもありますが、知らないものを食べてみたい、食べてコンプリートしたいという気持ちが強いです。日本だけでも僕の知らない食べ物が、まだまだたくさんあります。ゲームのカードを集める感覚に近いのかもしれませんが、日本中を食べ尽くしたいんです。

野菜ソムリエは8歳、野菜ソムリエプロは10歳の時に取得。12歳の時には日本さかな検定(とと検)1級にも合格しました。食への思いと好奇心からこれらの資格を取得しましたが、取得後は知識が深まるとともに世界がどんどん広がっていきました。好きな野菜について情報を発信したら、その野菜の生産者の方とつながることができ、直接お会いしてお話をうかがったり、採れたてのものを食べさせてもらえたり、うれしいことがたくさんありました。さらにそのご縁などから、自治体や企業、団体と関係ができて、大使やアンバサダーとして様々な活動をさせていただけるようにもなりました。

どうすればこどもたちに食の魅力が伝わるか

メディアに出演するなど、いろいろなところからお声をかけていただいていますが、中でも多いのが、こどもたちに野菜の魅力を伝える機会です。僕自身がこどもたちに近い世代であり、こどもたちに話を聞いてもらうことの難しさを分かるからこそ、心がけていることもあります。

それは、一方的に話を聞かせないこと。こどもたちはじっとしているより遊んでいるほうが楽しいので、ただ座って話を聞かされてもまるで学校の授業のように感じて、眠たくなってしまいます。実物を用いたり実演を取り入れたりして、目で見ただけでも伝わるように表現にすることで興味をひきます。前に集まってもらって間近で実演をしてみせると、こどもたちの関心も高まり、「やってみたい!」という声が聞かれることも。また、クイズのような自分で考える時間や遊びの要素も加えて、面白い、楽しいと思ってもらえるように毎回工夫しています。

こどもに何かを伝えるためには、こどもの目線に立って、自己満足にならず、こどもの心の動きに敏感になることが求められるのかなと思います。だから、こどもたちに分かりやすく、親しみを感じてもらえるような言葉づかいも意識しています。

「食育」への取組で大人たちに願うこと

「食育」には様々な内容が含まれますが、こどもたちに食への興味をもってもらったり、好き嫌いをなくしてもらったりするのに役立つのは、やはり「面白い」「楽しい」と感じてもらうことではないでしょうか。野菜の収穫や漁業に参加したり、とれたての食材を使って料理を作ったりした経験から、日常生活ではできないこと、その場所でしかできないことの特別感は、こどもたちの好奇心を引き出すのに有効だと実感しています。体験は、例え失敗したり痛い目にあったりしたことであっても、必ず心に残ります。そして、体験を通じて芽生えた興味や好奇心は、何らかの形でこどもの未来につながります。だから、大人の皆さんには、こどもがやりたいことをできるだけサポートして、一緒に楽しんでもらえたらうれしいなと思います。

また、こどもたちの食欲も大切にしてもらいたいです。収穫体験などでは、その場の楽しさや野菜への興味から、それまで苦手な野菜であっても食べてみたいと言うこどもが多いです。そこで美味しく食べられれば苦手意識は克服できるでしょう。もし、こどもに好き嫌いがあったとしても、周囲の大人は無理に食べさせないようにしてあげてください。無理をして食べると、その食べ物がずっと嫌いになってしまったり、食べることそのものが苦痛になってしまったりする場合がありますが、これは避けたいですよね。他の食べ物からでも必要な栄養は補えますし、そもそもこどもの味覚は成長とともにかわっていくものですから。

日本の食文化を未来に継承していくことが夢

野菜の魅力を伝える活動を始めてから、うれしいことがたくさんありました。生産者の方とつながれたのもその一つですし、紹介した野菜がスーパーで売り切れになれば、その魅力を多くの方に知ってもらえたことに喜びを感じます。一方で、これから自分にもできること、やるべきことがあると考えています。

日本には、全国各地でその土地ごとの気候や風土に合った伝統野菜が作られてきました。僕がまだ出合っていないものもたくさんあるでしょう。しかし、後継者不足などの理由から徐々にその数が減っているのが現状です。市場に多く出回らないためその美味しさを知られることがなく、売り上げが伸びずに栽培を断念するケースもあります。中には復活した伝統野菜もありますが、本当にもったいないことです。野菜だけでなく、地域に残る食にまつわる習慣や和食文化そのものの存続も危うくなっているように感じています。僕はこれら日本のすばらしい食文化を未来に残していきたいし、今ならまだ間に合うはずだと信じています。令和元(2019)年からは、自宅に作った菜園で伝統野菜の栽培も始めました。様々な活動を通じて食文化の存続をサポートしていくこと、それが僕の夢であり目標です。

PROFILE

野菜ソムリエプロ 緒方湊

神奈川県出身。
2008年生まれ。8歳で「野菜ソムリエ」、10歳で「野菜ソムリエプロ」に合格し、当時の最年少記録を大幅に更新。テレビなどへのメディア出演、農業関係のイベントやセミナー講演などで活躍中。