活動レポート

絵本で伝える女性農業者中心の食育活動

事業名:食と農の魅力を絵本読み聞かせで伝えるプロジェクト
団体名:AGRI BATON PROJECT

地域での取組:共食の場での食育農林漁業体験

学校での取組:地場産物等の活用農林漁業体験

実施都道府県:山形県、福島県、茨城県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、大阪府

農業従事者ならではの視点でとらえる食の課題

令和2(2020)年に発足し、日本全国の女性農業者を中心に現在約120名のメンバーで食育活動を行っているAGRI BATON PROJECT。食育活動の実績はこれまでに80回以上に上る。
AGRI BATON PROJECTは全国共通の課題として、こどもたちがスーパーやネット通販で販売されている農産物としか接していないため、食や地元の農産物などへの関心が低いこと、さらに、給食の廃棄率増加、農業の担い手不足と耕作放棄地の増加に危機感を示している。
上記のとおり現役の農業従事者ならではの視点から課題を捉え、持続可能な社会の実現に向けて、農家にできることとして全国で食育活動を推進。メンバーそれぞれが地元の小学校やこども食堂、幼稚園、保育園、認定こども園、学童、イベント、レストランなどで、農産物の魅力を伝える食育出前授業などを企画し、実施している。
また、食育出前授業ができる農業従事者を育成するための講座を開講し、修了者を「食農教育プレゼンター」として認定している。

AGRI BATON PROJECTの活動の柱となる絵本「あさごはんのたね」

絵本の読み聞かせを軸にした出前授業や農業体験を企画

本事業では、「学校給食における地場産物等を活用した取組等を増やす」「栄養バランスに配慮した食生活を実践する国民を増やす」「産地や生産者を意識して農林水産物・食品を選ぶ国民を増やす」「農林漁業体験を経験した国民を増やす」といった目標値の向上を目指した。
茨城県、山形県、福島県、千葉県の保育園や幼稚園、認定こども園、学童、小学校、こども食堂において、オリジナル絵本「あさごはんのたね」の読み聞かせや、農家による野菜の話などで構成した食育授業を実施。授業は1回あたり45~60分とし、クイズや手遊び歌なども連動させることでこどもたちを飽きさせない工夫をした。また、同様の食育授業をイベントやマルシェで開催した他、田んぼや畑での稲刈りや芋堀りといったこどもたち向けの農業体験、東京農業大学での学生向けの講話なども実施した。
メンバーの中には人前で話すのが苦手な人や自信のない人もいる。多くの施設に電子黒板やプロジェクターが設置されているため、AGRI BATON PROJECTでは誰もが簡単に使える食育授業のデジタル資料を作成し、本事業から多くのメンバーが活用した。

お米のぬいぐるみを使った説明でこどもたちに興味を抱かせる

会場ごとに異なる反応に食育の様々なニーズが明らかに

本事業では、開催した場所や参加者から様々な気づきが得られた。
こどもたちは、自分たちが普段食べている物が育つ現場に行き、実際に育てている農家の人の話を聞きながらその様子を見て、食材に触れたり匂いを嗅いだり口にしたりすると、食への関心が明らかに変わる。具体的には「嫌いだったけど食べられそう!」「自分で野菜を育ててみたい」といった声が聞かれた。また、東京農業大学からオファーを受け、食育を学ぶ学生向けに開催した講話では、「食育に関連した仕事に従事するにはどうしたらよいのか?」という質問が相次ぎ、その後のイベントなどにボランティアとして参加した学生もいた。食育が職業としても考えられていることを実感したという。
こども向けの食育事業の会場ではファミリーでの参加が多い。こどもと一緒に参加した保護者からは、「家庭でも食について考える機会を設けたいので、保護者向けの講座などを開いて欲しい」という要望があった。こども食堂からも、こどもたちの食を守る視点から同様のニーズが挙がってきている。
AGRI BATON PROJECTでは、現在の食育活動が主に小さなこども向けとなっていることから、今後は中高生や大人を対象とした活動も考えたいとしている。

山形県「第二さくらんぼ子供園」での絵本の読み聞かせの様子

女性農業者が食育活動に取り組みやすくなる仕組み作りに向けて

農業に従事し、子育てや家事を通じてこどもたちへの上手な接し方や食の知識を得ている女性が食育に取り組むことには、様々なメリットがある。全国のAGRI BATON PROJECTメンバーも、農業はもちろん、自身の経験を様々な形で活かした食育活動を行っている。活動の軸となるオリジナル絵本を製作し、その読み聞かせを行っていることも、子育てや家事を通じた女性たちの目線から生まれた活動である。その一方で、農家の女性は家業の大切な担い手であることから、家族から食育活動に理解を示されないケースも多々あるという。
食育活動がボランティアではなく仕事になることで、農家の女性自身や家族をはじめとする周囲の人の認識が変わり、食育活動により取り組みやすくなることが期待される。今回の企画が農林水産省の支援事業として実施され、参加した女性に謝金を出せたことは、食育活動への農家の女性の参画を後押しする成果もあった。AGRI BATON PROJECTでは令和5(2023)年にNPO法人申請をしており、今後は法人や個人の賛助会員を募って、持続可能な活動推進に転換していきたいとしている。

マルシェでの活動風景。女性農業者は食育活動の有力な担い手であるとの理解を広めたい

実施主体:AGRI BATON PROJECT
〒301-0803 茨城県龍ケ崎市塗戸町2047